以前にも書いたのですが、相続を放棄したからと言って安心できない事態があります。
相続財産管理人の専任という作業が必要です。この際にかかり費用が馬鹿にならないという話を知ってましたか?
ということで、実は不動産の場合、たとえ相続放棄をしたとしても安心できないケースがあります。静岡に住む細川啓司さん(55歳)は、数年前に父親が亡くなった時、ほかのきょうだいとともに相続放棄の申し立てをしました。
特に資産らしきものは残されていない上、京都の実家はその時点でかなり老朽化していたので、これを相続して固定資産税を支払い続けることはばかばかしいと考えたからです。
ところが、空家対策特別措置法が施行されて間もなく、細川さんの元に、至急改修するようにという、京都府某市からの指導が入りました。
空き家となった実家の窓が壊れ、周囲に危険が及んでいるというのです。
すでに相続放棄をしていると主張したものの、「たとえ相続放棄をしても相続人に管理義務は残っている」と通告されたのです。「そんなバカな!」と細川さんは怒り心頭でしたが、残念ながら正しいのは、市の主張のほう。相続放棄をしたとしても、それによって相続人が不在になってしまった場合、法定相続人にはその不動産の「管理義務」が残ることが民法で規定されているのです(民法940条)。
そこからも逃れるためには、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
ただしその際、予納金を払わなければならないことがあります。予納金とは、相続財産管理人の経費や報酬に充てるための費用なのですが、都市部の場合、この費用がべらぼうに高く、最低でも100万円くらいかかることが通常で、場合によってはもっと高額になるケースも珍しくありません。
細川さんの場合、行政からの指導は、今のところ窓の改修だけでしたので、今回は相続財産管理人を立てることは見送り、自己負担で改修を済ませました。
ただし、管理義務はまだ残ったままなので、根本的な解決にはなっていません。
しかも、相続自体は放棄しているので、原則として売却することもできないのです。こうなったら、その不動産を文字通り「管理」していくしか方法はないのですが、遠方に住んでいる細川さんにとってそれは容易なことではありません。仕方がないので、費用をかけてでも、民間の管理会社に委託することも検討しているそうです。
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